仏文出身のフランス政府公認ガイド「イーノー」です。
フランスに30年住んでいます。
フランス語を専門で勉強してからフランスに来たわたしでさえ、
理解するのにむちゃくちゃ時間がかかったフレーズがあります。
それは
Si vous voulez
そう、このフランス語初級で習うSi vous voulezが、実は超やっかいなのです。
英語に訳すと
If you want
「あなたがしたいなら」「あなたが望むなら」。
でも
Si vous voulezは
「もしよろしければ」と訳す方がピンとくるケースが多いです。
このフレーズには、フランス人の真の「自由主義」「個人主義」が潜んでいるのです。
言葉の意味と共に Si vous voulezに潜むフランス人思考も解説していきます。
Si vous voulezの意味
- 単語ごとの意味
- 発音
- 例文
の順で書いていきます。
単語ごとの意味
Siは英語のIfです。
「もし~なら」という過程法で使う単語です。
Vous(ヴー)は「あなた」。
「あなた方」という複数形のときも同じ単語、
親しい関係のときはTu(チュ)という単語を使います。
Voulezはvouloir (英語のwant)の現在活用形の1つです。
※フランス語を勉強されている方のために
vouloirの現在活用を載せておきます。
je | veux |
tu | veux |
il (elle) | veut |
nous | voulons |
vous | voulez |
ils (elle) | veulent |
Si vous voulez 親しい間柄の場合は Si tu veux
直訳すると
「もし、あなたがしたいなら」「もし、あなたが望むなら」
でもたいていの場合は意訳で
「もしよろしければ」
と訳すほうがぴったり来ます。
発音
発音は
Si vous voulez スィ ヴ ヴレ
Si tu veux スィ チュ ヴ
「スィ」の部分は、「シー」とカタカナで振ってある本が多いです。
でも「シー」と発音すると、フランス人にとってはたいへん耳障りな音になるんです。
それで、あえてフランス語発音になるべく近い「スィ」と書きました。
録音を置いておきます。
Si vous voulez
Si tu veux
Si vous voulez あるいはSi tu veuxの使用例
例1)ホームパーティーの場面で
食器を下げるホスト側の友達に向かって
招待されている人: 食器下げるの手伝おうか?
ホスト側 : Si tu veux.
これを「あなたがやりたかったら」って頭の中で訳すと、
ちょっと「ムカッ」ってきませんか?
正直、イーノーは長年Si tu veuxの返答に「ムカッ」ってきてました。
日本人としては、
「手伝おうか?」って親切で言ってるんだから、
返事は
「嬉しい、ありがとう。」って言ってほしいのです。
「あなたがやりたければ」じゃないでしょ!って言いたくなってしまいます。
でも、これを
「もしよかったら」って訳すと、ちょっと気が楽になりませんか。
っで、実際、フランス人も
Si tu veuxを使う人の気持ちは「もしよかったら」の感覚に近いのです。
例2)スーパーのレジで
店員: ポイントがたまってますから、このポイント使うと5ユーロ安くなりますよ。使いますか?
お客さん: Si tu veux
これも、「あなたがそうしたければ」ってどういうこと、って感じじゃないですか?
いやいや、店員さんが得するわけじゃないから、お客さん、あなたがどうしたいのか言ってよ!
って言いたくなります。
でも、「もしよろしければ」と意訳すると、まあ納得します。
しかしですよ、やっぱり日本人的には、”OUI, Je voudrais bien.” 直訳すると 「はい、使いたいです(使います)」と返答してほしいです。
Si vous voulezにみる「自由で個人主義」なフランス人
長い間フランスで生活していても、なんだかしっくりこないSi vous voulez!
フランス人数名にインタビューしてみました。
どうして「~をしたいですか?」って聞かれたときに「~したいです」って答えず、Si vous voulezで答えるの?
返ってきた返答をわたしなりに説明します。
フランス人は「自分が~したい」とダイレクトにいうことに抵抗があるのです。
これ、意外じゃないですか?
個人主義、とか、自由の国、っていうイメージとは逆。
彼らは自分のやりたいことを素直に「自分!自分!」で主張しません。
「相手の気持ちをまず尊重したい、尊重しなければ」と考えているようです。
だから”Si vous voulez”
「もし、あなたが希望するならば」→「もし、よろしければ」
という返答がきてしまうわけですね。
「わたしのやりたいことをあなたに押し付けませんよ」「あなたの自由を尊重しますよ。」というスタンスだと思ってください。
これを知ったとき、イーノーはちょっと開眼したような気がしました。
本当のフランスの「個人主義」「自由」を見たような気がしました。
- フランス人は個人主義です。でも、これは自分個人じゃなくて、「相手個人」を尊重することなのです。
- フランス人は「自由主義」です。
でも、これも「相手の自由を尊重する」という意味あいが大きいのです。
みんながこういう風に考えるから、結局はみんなが個人主義で自由主義ってことになるんですね~。
まとめ
Si tu veux あるいはSi vous voulezを「あなたがしたければ」と訳してはいけません。
多くのケース「もしよろしければ」と意訳する方がすんなりと通ります。
そして、この表現は、「相手個人の自由を尊重しよう」というフランス人の相手主体の個人主義、自由主義の表れでもあるのです。
フランスで「~したいですか?」って聞かれたときに
「Si vous voulez」って答えてあげてください。
もうこれで、本物のフランス人です!
イーノーは30年もフランスにいますが、今でも「Si vous voulez」と返答する前に、一瞬の間があいてしまいます……
最後までお読みくださって、ありがとうございました。
メルシー!(Merci)
初めまして、私も在仏まもなく30年を迎えます。このブログを読んで全く同じ経験(ムカっと)をしたなあと懐かしく感じました。私も出身が関西(大阪北部)なので勝手に親近感を覚えてコメントさせていただきました。
メッセージ大変ありがとうございます。
同じ体験をされた方のコメント、とてもうれしいです。
また、親近感を覚えてくださったこともうれしい!
これからもよろしくお願いいたします。