美術

【宗教画がおもしろい】天使には翼がついている、と思っていませんか?

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パリに住むフランス政府公認ガイドの「イーノー」です。

みなさん、「天使には翼がつきもの」って思ってますよね?

私も思っていました。
でも、天使に必ずしも翼がついているわけではなかったのです。

 天使についてちょっと詳しく知りたい方

 「宗教画っておもしろいの?」と思っていらっしゃる方

どうぞこの記事を読んでみてください。

宗教画好きのフランス観光ガイドの私が
天使の翼について深堀しています。

天使に翼はなかった

いきなり衝撃的!

天使にはもともと翼がついていませんでした。

証拠が下の絵。
ローマのカタコンブといわれる墓所に、2世紀に描かれた天使です。

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出典: Wikimedia Commons Marsyas, from unknown original source., Public domain

旧約聖書の創世記28章に出てくる話『ヤコブのはしご』の絵です。

(『ヤコブのはしご』の内容については
さとなお(佐藤尚之)さんがnoteで詳しく説明されています。)

 

どれが天使かわかりましたか?

右側の大きい人が天使じゃないですよっ!
左側の階段上り下りしている2人が天使なのです。

単にはしご上り下りしている子供!

天使だって言われないとわからないですよね。
なぜなら、翼がついていないからです。

2世紀から4世紀までの間、
天使には翼がついていませんでした。

どうして翼がなかったのか?

2世紀から4世紀にかけて、まだまだキリスト教は新興宗教。
公には認められていませんでした。

みんな、隠れキリシタンだったわけです。

じゃあ人々はどういう神様をあがめていたのか?
古代ギリシャ・ローマ神話に登場する大勢の神様です。

それらの神様の多くには翼がついていました。
例えば愛の神さまであるキューピッドとか……

「天使とキューピッドって違うの?」と思われた方は先にこちらの記事をお読みください。

 

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一目でわかる キューピッドと天使の違いキューピッドと天使、似ているけれどまったく違う存在。キューピッドはギリシャ・ローマ神話に出てくる愛の神、天使はキリスト教・ユダヤ教・イスラム教の聖典に登場する神の使者です。フランス・ガイドがキューピッドと天使の違いを分かりやすく説明します。...

キリスト教で神様のメッセンジャーである天使、
「古代ギリシャやローマの神様とは違うんだ!」
ということを意識的に主張しなければいけませんでした。

キリスト教徒
キリスト教徒
天使に翼をつけたら古代ギリシャ・ローマ神話の神々と混同される、翼はつけないでおこう。

と決定します。

グッド・アイデア!
でも翼のない天使、人間にしか見えない……
それが問題でした。

天使が翼をつける

4世紀後半から天使が翼をもつようになります。

5世紀初めの絵ですが、ちゃんと翼がついて、「天使」らしくなっています。

ローマのサンタマリア・マッジョーレ大聖堂内のモザイク画です。↓

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出典:Auteur inconnu, Public domain, via Wikimedia Commons

どうして翼がついたのか?

理由は簡単。

ローマ帝国でキリスト教が国教となったからです。

4世紀末、
古代ギリシャ・ローマの神様を追い抜いて、
イエス・キリストが主役の座に就いたわけです。

実は昔の人々も,
私たちと同じことを考えていました。

「翼つけておかないと、天使が神様の使者に見えない!」

 

そこで、

キリスト教徒
キリスト教徒
もう異教徒の神と間違われることなんて恐れなくていい。
なんせキリスト教が国教なんだから!
神様の使者らしく天使に翼をつけよう。

というわけで
晴れて天使に翼をつけることができました。

 

でも「無」から芸術を生みだすことは不可能に近いです。

その時の天使像のモデルに1つになったのが、
古代ギリシャの神ニケ(勝利の女神)だといわれています。

 

ルーブルにあるサモトラケのニケ↓

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出典 : Louvre Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

「あなたが勝者ですよ」という神からのメッセージを持って天から舞い降りてくる「勝利の女神ニケ」です。

天から舞い降りてくるので翼がついています。

神様からのメッセージを持ってくる女神⇒神様からのメッセージを持ってくる天使

につながるわけですね。

 

まとめ

みなさん、いかがでしたか?

「天使には翼がついているもの」
という常識が覆されましたね。

もともとは翼がなかった天使、
4世紀に翼をつけられた理由が
「キリスト教が国教になったから」

なるほどーって感じです。

 

ちょっと知っておくと
宗教画がおもしろくなるお話でした。

 

最後までお読みくださって、ありがとうございました。

A bientôt (アビアント)!

 

※A bientôt (アビアント)=フランス語で「それではまた近々!」